成年後見制度が変わる!令和8年4月3日閣議決定の民法改正案と、「親族後見」の重要性

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当事務所では、成年後見制度の申立てサポートを行っておりますが、常々「成年後見人はご家族(親族)が担うのが本来あるべき姿であり、司法書士などの専門職はあくまでそれをサポートする黒子であるべき」という方針を貫いてまいりました。そのため、自らが後見人に就任することは原則としてお断りしております。

そんな当事務所の理念を後押しするような、極めて重要な法案が動き出しました。令和8年(2026年)4月3日、成年後見制度を抜本的に見直す民法改正の要綱案が閣議決定されました。

本日は、現在の成年後見制度が抱える問題点(いわゆる制度の闇)を振り返りながら、今回の改正案で何がどう変わるのか、そしてそれがご家族にとってどのような意味を持つのかを分かりやすく解説いたします。

 1. なぜ改正が必要なのか?現行制度が抱える問題点

2000年にスタートした現在の成年後見制度ですが、利用者は約25万人にとどまり、使い勝手の悪さが長年指摘されてきました。特に、以下の点がご家族を苦しめる大きな要因となっていました。

・一度始めたら本人が亡くなるまでやめられない(終わらない後見)

たとえば「親の施設入所費用を捻出するために、空き家になった実家を売却したい」といった一時的な目的で制度を利用した場合でも、売却が終わったからといって制度をやめることはできません。本人の判断能力が回復するか、亡くなるまで原則として利用が続きます。

・専門職の「後見ビジネス化」と家族の排除

利用が長期化する中、現在では親族ではなく、司法書士や弁護士などの専門職が後見人に選ばれるケースが多数を占めています。専門職が就任すると、本人の資産額に応じて毎月数万円の報酬を支払い続けなければなりません。
さらに問題なのは、何十件もの案件を抱える一部の専門職が「効率化」を優先し、施設に入所しているご本人に一度も面会に行かないケースが散見されることです。事務的な財産管理のみを行い、親族との面会すら拒否して家族を排除してしまう痛ましい事例も問題視されてきました。

ここで、私が以前ご相談を受けた、あるご夫婦のケースをご紹介します。

 夫は定年まで実直にサラリーマンを勤め上げ、妻は若い頃に結婚してからずっと、専業主婦として家庭を支えてきました。いわゆる「内助の功」で夫を送り出し、子どもを育て上げ、今は夫の厚生年金を主な原資として、慎ましくも穏やかな老後を送っていたお二人です。

 異変が起きたのは、夫に認知症の症状が現れ、銀行の手続きに支障が出始めた時でした。良かれと思って制度を利用し、裁判所から「専門職後見人」である司法書士が選任されたのですが、そこから妻の日常は一変してしまったのです。

「まるで、自分の家の財布を他人に握られたような感覚です」

 奥様が力なく溢された言葉が忘れられません。
 それまで長年、夫の給料袋を預かり、一円単位で家計をやり繰りしてきたのは奥様でした。しかし、後見人が付いた途端、夫の年金口座は後見人の管理下に置かれました。日々の食費、光熱費、急な入用……そのすべてにおいて、見ず知らずの後見人に「今月はこれだけ必要です」とお伺いを立て、許可をもらわなければお金が下りない生活になったのです。

 ここで、法制度の残酷な矛盾が浮かび上がります。
 もしこのご夫婦が「離婚」という道を選んでいたなら、年金分割制度によって、奥様は夫が築いた厚生年金の約半分を「自分自身の権利」として、誰に気兼ねすることなく受け取ることができたはずです。

 しかし、最後まで添い遂げようと決めた妻に対して、今の成年後見制度はあまりにも冷淡です。
専門職後見人は「本人の財産を守る」という大義名分の下、たとえ生活を共にする妻であっても、夫の財産を持ち出すことを厳しく制限します。

 コロナ禍を理由に、一度も本人に会いに行かないような後見人が、画面越しに数字だけを見て「支出が多い」と家計を査定する。長年夫を支え、共に財産を築いてきた妻のプライドと権利は、制度の狭間で完全に無視されていました。

・包括的な権限による「自己決定権」の制限

現行の「後見」類型では、後見人に財産管理全般の包括的な代理権が与えられます。そのため、本人がまだ自分で決められる日常的なことまで後見人が代わりに決めてしまい、自己決定権が過度に制限されているという批判がありました。

 2. 改正法案のポイント:制度はどう変わるのか?

今回の改正案は、こうした課題を解消し、「必要な時に、必要な範囲で利用できる制度」へと大転換を図るものです。主なポイントは以下の通りです。

 ① 「補助」への一本化と、オーダーメイドの権限付与

現在の「後見」「保佐」「補助」という3つの枠組みは廃止され、すべて「補助」という一つの制度に一元化されます。
最大の変化は、本人を過度に制限する「包括的な代理権の付与」が原則廃止されることです。今後は「不動産の売却」や「遺産分割協議」など、本人が本当に必要としている「特定の行為」に限定して、個別に代理権や同意権が付与される(オーダーメイド型)仕組みに変わります。
(※事理弁識能力を欠く常況にある方のために、重要な財産行為の取消権がパッケージ化された「特定補助」という手厚い枠組みも設けられますが、代理権についてはあくまで個別付与となります。)

 ② 「終わることのできる後見」の導入

これがご家族にとって最大の朗報でしょう。目的としていた特定の手続き(不動産の売却など)が完了し、家庭裁判所が「保護の必要性がなくなった」と認めれば、途中で制度の利用を終了できるようになります。年に1回、補助人が家庭裁判所に状況を報告する機会があり、家族からの申し立てや裁判所の職権によって終了が可能になります。

 ③ 本人の意思尊重と支援者の交代の柔軟化

支援にあたっては、本人に分かりやすく情報を提供し、意向を把握した上で本人の意思を尊重するという「意思決定支援」の姿勢が法律上明確化されます。また、補助人が本人に面会に来ないなど、本人のニーズに合わなくなった場合には、「本人の利益のため特に必要がある」という新たな事由によって、柔軟に支援者を交代させることができるようになります。

 ④ 申立権者の拡充

これまで制度利用の申立てが認められていなかった同性パートナーや内縁の配偶者、親しい友人などであっても、本人が元気なうちに公正証書によって指定しておけば、申立てができるようになります。

 ⑤ 任意後見制度の使い勝手向上

あらかじめ本人が支援者を決めておく「任意後見制度」についても、法定後見(補助)との同時利用が解禁されるほか、家庭裁判所が認めれば例外的に任意後見監督人を選任せずに制度を開始できるようになるなど、より柔軟な運用が可能になります。
これにより、任意後見監督人(必ず専門職が選任されます)の毎月の報酬がネックとなって、利用を敬遠していた方にも利用しやすくなる予定です。

 3. 当事務所が考える、改正案の意義とこれからの対策

今回の法改正が実現すれば、「遺産分割の手続きのために一時的に専門職を補助人として選任してもらい、手続きが終われば制度の利用を終了して、その後の生活支援は家族で引き受ける」といった柔軟な使い方が可能になります。

これは、当事務所が理想とする「ご本人の支援はご家族(親族)が中心となって行い、我々のような専門職は必要な法的手続きのサポートに徹する」という形を実現しやすくする、非常に意義深い改正だと考えています。専門職に高額な報酬を漫然と払い続けたり、家族が本人の支援から蚊帳の外に置かれたりする不条理な事態は、この改正によって大きく減少することが期待されます。

順調に進めば、この新制度は2028年度中(公布の日から2年6か月以内)にも運用が始まる見通しです。
制度が使いやすく、柔軟になる一方で、「どのタイミングで、どの権限(代理権)を裁判所に求めるべきか」といった見極めは、これまで以上に専門的な知識が必要になります。

当事務所はこれからも、決して後見人としてご家族の間に割って入るようなことはいたしません。あくまで「親族後見人」を目指す皆様の伴走者として、最適な申立てや制度利用のコンサルティングを行ってまいります。
「認知症になった親の不動産をどうすればいいか」「今後の財産管理に不安がある」といったお悩みがありましたら、ぜひお早めに当事務所までご相談ください。ご家族の絆を守るための最善の策を、一緒に考えていきましょう。