【事業承継・相続対策】相続人に対する株式の売渡し請求とは?

  1. HOME
  2. コラム
  3. 【事業承継・相続対策】相続人に対する株式の売渡し請求とは?
「経営者が亡くなり、自社株式が経営に関与しない相続人に分散してしまった」とか、「(商法時代に設立された株式会社の場合、発起人が7名以上必要だったこともあり、)創業者の知り合いの相続人が株式を保有していて、それを取りまとめたい」というご相談をいただくことがあります。

このような場合に、後継者や現経営者に経営権を集中させるための強力な手段として「相続人等に対する株式の売渡し請求」という制度があります。 この制度の概要から要件、手続きの流れ、そして実務上の注意点や財源がない場合の代替手段について解説します。

1. 相続人等に対する株式の売渡し請求とは?

「相続人等に対する株式の売渡し請求」とは、経営者の死亡などにより、相続その他の一般承継によって自社の株式を取得した者に対し、会社がその株式を自社に売り渡すよう強制的に請求できる制度です。

この制度の主な目的は、会社にとって好ましくない人物への株式の分散を防ぎ、経営の安定を図ることにあります。

売渡請求は一種の形成権(意思表示が行われると相手方の承諾なく法律上の関係を変動させる権利)とされており、請求を受けた相続人は原則として拒否することができません。

2. 制度を利用するための要件

この制度の対象となるのは「譲渡制限株式」です。
そのため、中小企業で一般的に見られるような、すべての株式に譲渡制限を設けている会社(非公開会社)であれば利用可能です。

そして、あらかじめ会社の定款に「相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる」旨の規定を設けておく必要があります。
現在この規定がない場合は、株主総会の特別決議によって定款変更を行う必要があります。

3. 手続きの流れ

実際に売渡し請求を行う場合の手続きは、以下の流れで進みます。

① 株主総会の特別決議

売渡しを請求するには、株主総会の特別決議を経る必要があります。
この決議では、「売渡しを請求する株式の数」と「その株式を所有する相続人等の氏名又は名称」を決定します。
なお、対象となる相続人等は、この決議において議決権を行使することができません。

② 相続人等への売渡しの請求(通知)

総会決議後、会社から相続人等へ売渡しの請求を通知します。
注意点として、この通知は「会社が相続等があったことを知った日から1年以内」に行う必要があります。期限を過ぎると請求権が消滅してしまいます。

③ 売買価格の協議

株式の売買価格は、まず会社と相続人等との間の協議によって決定します。
この売渡し請求は、請求を受けた相続人は原則として拒否することができないと書きましたが、相続人側は価格については交渉の余地があるわけです。

④ 裁判所への価格決定の申立て(協議が調わない場合)

当事者間で協議が調わない場合は、売渡請求があった日から20日以内に、会社または相続人のいずれかから裁判所に対して売買価格決定の申立てを行うことができます。

裁判所は、請求時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を決定します。

なお、協議が調わず、かつ20日以内に裁判所への申立てが行われなかった場合、売渡請求自体が効力を失う(無効になる)ため、期限には十分な注意が必要です。

4. 導入・活用における3つの注意点

強力な制度である反面、以下の点に注意が必要です。

① 財源規制(分配可能額の制限)

会社が株式を買い取る行為は「自己株式の取得」に該当するため、買取金額は効力が生じる日における会社の分配可能額の範囲内でなければなりません。
会社に十分な資金や分配可能額がない場合は、強制的な買い取りができません。

② 相続クーデターのリスク

この制度の落とし穴として「相続クーデター」と呼ばれるリスクがあります。前述の通り、売渡請求の対象となる相続人は株主総会で議決権を行使できません。
そのため、もし大株主に相続が発生した場合、少数の議決権しか持たない他の株主たちが結託してこの制度を発動させると、大株主の相続人の株式が強制的に買い取られ、少数株主によって会社の支配権を奪われる危険性があるのです。

③ 買取価格が高騰するリスク

当事者間で価格の合意ができず裁判所に価格決定を委ねた場合、純資産価額などを踏まえた判断がなされることがあり、会社側が想定する以上の高い水準で買い取らざるを得なくなる可能性があります。

5. 財源がない場合の代替手段

もし「①財源規制」に引っかかり、会社に十分な買取資金(分配可能額)がない場合でも、経営を安定させるための代替手段が存在します。

・後継者個人や持株会社(SPC)による買取り

会社の資金を使わずに、後継者自身が個人として買い取る方法や、後継者が出資して新たに設立した持株会社(SPCや受皿会社)が金融機関などから融資を受けて買い取る方法があります。

・指定買取人の指定

対象の相続人が株式を換金するために第三者への譲渡承認を求めてきた際、会社はその譲渡を「不承認」としたうえで、後継者などを「指定買取人」に指定し、会社の代わりに個人の資金等で買い取らせることができます。(※ただし、これはあくまで相続人側から譲渡の申し出があった場合にのみ発動できる手法です。)

・キャッシュアウト(スクイーズアウト)の活用

もし後継者側ですでに一定以上の議決権を確保できている場合は、会社法上の制度を利用して少数株主を強制的に金銭で排除する手法も検討されます。
具体的には、3分の2以上の議決権があれば可能な「株式併合」や、90%以上の議決権を有する場合に認められる「特別支配株主の株式等売渡請求」、発行済みの普通株式を全部取得条項付種類株式に変更し、会社がこれを取得する対価として別の株式を交付する「全部取得条項付種類株式の活用」などが考えられます。

6.おわりに

「相続人等に対する株式の売渡し請求」は、事業承継において株式の分散を防ぐ非常に有効な手段ですが、「相続クーデター」や「財源規制」などのリスクも伴います。しかし、万が一会社の財源が不足する場合でも、様々な代替スキームが存在します。

当事務所では、経営状況や株主構成を踏まえた上で、事業承継に最適な定款の見直しや株式集約のスキームをご提案しております。相続対策や事業承継でお悩みの経営者様は、ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。