「名義を移してから相続放棄」は絶対NG!負動産で後悔しないために早めの相続登記が必要な理由
最近、実家の空き家や利用価値のない山林など、いわゆる「負動産(マイナスの価値しかない不動産)」の相続に関するご相談が急増しています。
その中で、「何世代も名義変更を放置した結果、誰も引き取りたくない不動産をめぐって親族が窮地に立たされる」というケースに度々直面します。
今回は、実際に相談の現場でよく挙がる「ある危険な裏ワザ」の落とし穴と、なぜ「相続登記は早めにやらなければならないのか」について、分かりやすく解説します。
よくある危険な考え:「亡き兄になすりつけて放棄すればいい?」
たとえば、こんなケースを想像してみてください。
【ケーススタディ】
10年前に父親が亡くなったが、実家の名義は父親のまま放置していた。
最近、実家に住んでいた長男も亡くなってしまった。
残された次男・三男は、今にも倒壊しそうな実家(負動産)を絶対に相続したくない。
この時、インターネットなどで中途半端に知識を得た方が、こんな「裏ワザ」を思いつくことがあります。
「そうだ! 今回の遺産分割協議で『長男が生前に実家をすべて相続した』という証明書を作って、実家を長男名義にしよう。そのあとで、僕たちが『長男の相続放棄』をすれば、実家から完全に逃げられるんじゃないか?」
一見、理にかなっているように見えるかもしれません。
しかし、結論から申し上げます。この方法は法律上絶対に認められず、取り返しのつかない悲劇を生みます。
裏ワザが失敗する2つの理由(法律の壁)
なぜこのスキームが通用しないのか、主な理由は2つあります。
1. 遺産分割協議への参加=「単純承認」とみなされる
亡くなった長男の代わりに、次男・三男が父親の遺産分割協議に参加し、ハンコを押す行為。これは法律上、長男の持っていた権利(財産)を動かす「処分行為」に該当します。
民法には「相続財産を処分した場合は、プラスもマイナスもすべて相続することに同意した(単純承認)とみなす」という厳しいルールがあります。
つまり、実家を長男名義にするための書類に実印を押した瞬間に、その後の「長男の相続放棄」は家庭裁判所で一切認められなくなってしまうのです。万が一、長男に多額の借金があった場合、それもすべて背負うことになります。
2. 「父の相続分」は放棄できずに残ってしまう
「じゃあ、遺産分割協議には参加せず、そのまま『長男の相続放棄』だけをすればいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、これも根本的な解決にはなりません。父親が亡くなった時点で、次男・三男にも「父親からの法定相続分(権利)」がすでに発生してしまっています。長男の相続を放棄しても、自分自身の「父親からの相続分」は手放せないため、結局は実家の共有者として、固定資産税の支払いや建物の管理責任(倒壊時の損害賠償リスクなど)から逃れることはできません。
さらに恐ろしいことに、共有者の一人(長男)の相続人がいなくなった場合、その持分は最終的に他の共有者(次男・三男)に吸収されるという法律(民法255条)まであります。逃げるつもりが、最終的にすべて自分たちに降りかかってくるのです。
手遅れになると「お金を払って手放す」しかなくなる
このように、相続を何代も放置して権利関係が複雑になってしまうと、もはや「相続放棄」などの法律の制度を使って負動産を手放すことは不可能になります。
最終的には、自分たちで費用を負担して建物を解体して「相続土地国庫帰属制度」を利用するか、あるいは数十万円〜百万円単位の費用を民間業者に支払って「引き取ってもらう」しか、不動産から逃れる術がなくなってしまうのです。
だからこそ「相続登記はお早めに」
こうした八方塞がりの悲劇は、「父親が亡くなった時に、すぐにきちんとした相続手続き(相続登記)をしておけば」防ぐことができたはずです。
- 父親が亡くなった直後であれば、誰もが状況を把握しており、スムーズに話し合いができます。
- 父親が亡くなった後に兄名義で相続登記をしていれば、「兄の相続放棄」を行うことで、負動産を手放すことができた可能性があります。
- もし本当に誰もいらない財産であれば、その時点で全員で「親の相続放棄」を選択することもできました。
2024年4月から、いよいよ「相続登記の義務化」がスタートしました。これは単に「罰則があるから」やるべきものではありません。「愛する家族や将来の世代に、負動産のトラブルと管理責任を押し付けないため」に行う、最後の大切な手続きです。
「何年も前の相続がそのままになっている」
「実家の名義が誰か分からない」
そんな心当たりがある方は、権利関係が複雑に絡み合って手遅れになる前に、ぜひお早めに当事務所までご相談ください。状況を整理し、最善の解決策をご提案させていただきます。



