事業承継の準備不足が招く会社の崩壊〜ある日突然訪れる危機と、今すぐ始めるべき4つの準備〜
日頃、多くの中小企業経営者の方々とお会いしますが、「事業承継の準備はまだ先でいい」「自分が倒れることなど考えていない」とおっしゃる方が少なくありません。
近年、経営者の平均年齢は上昇を続け、2020年には初めて60歳を超えました。経営者年齢のピークは65歳から69歳であり、4割以上の経営者が65歳から75歳未満の間に事業承継や廃業を予定していると言われています。
長年会社を引っ張ってこられた社長はバイタリティに溢れていますが、人間である以上、ある日突然、病気や事故に見舞われるリスクは誰にでもあります。
もし、何の準備もしていない状態で社長に万が一のことが起きたら、会社やご家族にどれほど「大変な事態」が待ち受けているか、ご存知でしょうか?
今回は、準備不足が引き起こす恐ろしい現実と、手遅れになる前に「具体的にどのようなことを準備しておくべきなのか」を詳しく解説します。
第1部:準備不足が招く3つの恐ろしい危機
危機1:会社が動かない!「代表取締役の不在」による機能停止
社長が唯一の代表取締役であった場合、死亡と同時に会社は代表権を持つ人物を欠くことになります。会社法上、代表取締役は会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有しています。そのため、代表取締役が不在になると、会社は新たな契約の締結や資金管理などの重要な法律行為ができなくなり、機能不全に陥ります。
役員が他にいない、あるいは法定の取締役の人数を欠く状態になった場合、残された株主や利害関係人が地方裁判所に「一時取締役」の選任を申し立てる必要があります。
この手続きには時間や費用がかかり、その間、会社の業務が滞るという大きなリスクが生じます。
危機2:残された家族を襲う「連帯保証」という負の遺産
日本の中小企業では、80%を超える企業が、金融機関からの融資に際して経営者の個人保証(連帯保証)を提供しているのが現状です。
社長が亡くなった場合、会社の借入金自体が当然に相続されるわけではありませんが、社長個人の「連帯保証人としての地位」は、法定相続分に応じて相続人に承継されるのが原則です。つまり、事業に全く関与していない奥様や子どもたちが、突然会社の多額の借金の連帯保証人になってしまうおそれがあるのです。
これを免れるためには、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で「相続放棄」の手続きをする必要があります。しかし、相続放棄を選択すると、連帯保証債務から逃れられる代わりに、自宅の不動産や個人の預貯金、自社株式など、プラスの財産もすべて手放さなければならなくなります。
危機3:会社が乗っ取られる!?「株式の分散」と遺留分の恐怖
会社の支配権を握る上で最も重要なのが「自社株式」です。遺言書を遺さずに社長が亡くなった場合、社長が所有していた株式は、遺産分割協議が成立するまで共同相続人全員の共有(準共有)状態となります。
この状態では、相続人同士で話し合って「権利行使者」を1人指定し、会社に通知しなければ、株主総会で議決権を行使することすらできません。
また、「長男を後継者にするから、生前に株式をすべて贈与してしまおう」と考えて実行した場合でも、安心はできません。民法の「持ち戻し制度」により、生前贈与された株式は相続時に「時価で」計算し直され、遺留分(法律で保障された最低限の取り分)を算定するための基礎財産に合算されてしまいます。
その結果、事業を継がない他の兄弟姉妹から、後継者に対して多額の「遺留分侵害額」の金銭支払いを請求されるというトラブル(争族)が頻発しているのです。
第2部:手遅れになる前に!今すぐ始めるべき4つの準備
このような悲劇を防ぎ、大切な会社とご家族を守るためには、社長が元気なうちから計画的に準備を進めることが不可欠です。具体的には、以下の4つの準備を行っておくべきです。
準備1:遺言書の作成と「除外合意」等の遺留分対策
まずは、後継者が確実に会社の支配権(株式)を握れるように、生前に「遺言書」を作成しておくことが極めて重要です。偽造や紛失のリスクがなく、遺言能力などの法的疑義が生じにくい「公正証書遺言」の形式で作成することを強くお勧めします。
さらに、遺言や生前贈与で株式を後継者に集中させた場合、前述の「遺留分」のトラブルを防ぐ対策が必須です。具体的には、以下の方法を検討します。
・除外合意の活用
経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)に基づく民法の特例を活用し、生前に推定相続人全員の合意を得て、贈与した自社株の価額を遺留分算定の基礎財産から「除外」する手続きを行います。
・生命保険の活用
遺留分侵害額の支払いが必要になった場合に備え、後継者を死亡保険金の受取人に指定した生命保険に加入し、代償金の支払原資を確保しておくことも有効な手段です。
準備2:定款の点検と整備(売渡請求等の規定)
非上場会社の場合、意図しない人物に株式が分散するのを防ぐため、会社のルールブックである「定款」を見直すことが重要です。
特に、相続によって事業に関与しない親族などに株式が渡ってしまった場合に備え、会社がその相続人に対して株式を会社に売り渡すよう請求できる「相続人等に対する売渡請求」の規定(会社法第174条)を定款に設けておくことを検討すべきです。これにより、株式の分散を防ぎ、経営を安定させることが可能になります。
準備3:経営者保証(個人保証)の解除に向けた取り組み
後継者に重い連帯保証の負担を背負わせないために、社長の生前から個人保証を外す準備を進める必要があります。
全国銀行協会などが公表する「経営者保証に関するガイドライン」を活用し、金融機関と保証解除の交渉を行います。このガイドラインに沿って保証を解除してもらうためには、以下の3つの要件を満たす体制作りが求められます。
- 法人と経営者個人の資産や経理が明確に分離されていること。
- 財務基盤が強化されており、法人単独で返済能力があること。
- 金融機関に対し、財務状況を正確かつ適時適切に開示し、経営の透明性を確保すること。
準備4:経営状況の「見える化」と事業の磨き上げ
後継者がスムーズに経営のバトンを受け取れるよう、会社の現状を正確に把握し、文書化しておく「経営状況の見える化」が必要です。
決算書や税務申告書などの財務データだけでなく、金融機関からの借入金一覧や返済予定表、個人所有の不動産の権利関係などを整理しておきましょう。
また、経済産業省が提供する「ローカルベンチマーク」などを活用して、財務情報だけでなく、業務フローや商流、技術力や顧客との関係性といった「目に見えない強み(知的資産)」を後継者と共有し、事業の磨き上げ(企業価値の向上)に取り組むことも大切です。
まとめ:事業承継の準備は「社長の最後の仕事」
事業承継は、単なる「社長交代」や「株の名義変更」ではありません。
また、税金の問題だけでなく、法務、財務、そして家族の「感情」など、多角的な視点が必要な一大プロジェクトです。
「まだ自分は元気だから」と思っている今こそが、最も冷静に、そして確実な準備ができる絶好のタイミングです。
ご自身の築き上げた会社と、従業員、そして何より愛するご家族を守るために、ぜひ「司法書士・行政書士 津田リーガルオフィス」までご相談ください。
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