外国籍の妻の住まいを守る最適な選択〜「配偶者居住権」を提案した理由〜

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 当事務所には、日々さまざまな相続対策のご相談が寄せられます。中でも私は、複雑な財産承継を可能にする「家族信託(民事信託)」の設計を数多く手掛け、得意分野としてまいりました。

 しかし、専門家として最も大切なのは「自分の得意な手法を当てはめること」ではなく、「お客様にとって真に最善の解決策は何か」を見極め、複数の引き出しの中から最適なものを選ぶことです。

 最近、ある男性のお客様から承ったご相談は、まさにその「引き出しの多さ」が解決の鍵となるケースでした。

「妻の住まいを守りたいが、不動産は日本の兄弟に残したい」

 ご相談者の男性は、中国籍の奥様とご結婚されていますが、ご夫婦間に子供はいません。

 「私が亡くなった後、妻が安心して住み慣れた自宅で暮らしていけるようにしてあげたい。
 しかし、単純に妻へ自宅をすべて相続させると、将来妻が亡くなったとき、その自宅は中国にいる妻の両親や兄弟などへ相続されてしまいますよね。
 そうなると、言葉も通じない中国の親族を巻き込んでの手続きとなり、最終的に日本の親族(私の兄弟)に家を戻すことは不可能になるのではないか。
 妻の暮らしは守りつつ、最終的には私の兄弟に不動産を継がせる良い方法はないでしょうか?」

 これは非常に鋭く、かつ深刻な懸念です。
 実際、外国籍の配偶者に日本の不動産を相続させ、その後にその配偶者が亡くなられた場合、本国の親族を探し出し、現地の公証処などで身分関係書類を集め、日本の遺産分割協議に参加してもらうなど、極めて煩雑な手続きが必要となります。
 手続きが頓挫し、不動産が「所有者不明の空き家」として塩漬けになるリスクは非常に高いと言えます。

家族信託が得意な私が、あえて「信託」を勧めなかった理由

 このような「自分→妻→兄弟」といった順番で財産の行き先を指定したい場合、真っ先に思い浮かぶのは「受益者連続型の家族信託(後継ぎ遺贈型信託)」です。

 日頃から家族信託の設計を得意としている私にとって、ご兄弟を受託者とし、奥様を第二受益者、ご兄弟を最終的な権利帰属者とする信託スキームを組むことは容易であり、まさにこの方法であればご相談者の希望を完璧に叶えることができます。

 しかし、私はお話を伺う中で、あえて家族信託をご提案しませんでした。

 理由は「費用と手間の負担」です。

 家族信託は極めて強力で柔軟なツールですが、複雑な信託契約書の作成コンサルティング費用や公正証書作成費用、そして不動産を信託するための「信託登記」にかかる登録免許税など、どうしても初期費用が高額になりがちです。
 今回のご相談者のご意向と財産規模を総合的に判断したとき、「家族信託という重装備を使わなくても、もっとシンプルで費用対効果の高い方法がある」と判断したのです。

費用を抑え、確実な安心を 遺言による「配偶者居住権」の提案

 そこで私が「今回のお客様にとっての最適解」としてご提案したのが、2020年に施行された新しい制度である「配偶者居住権」を遺言で設定する方法です。

 配偶者居住権とは、「建物の所有権」「建物に一生涯住み続ける権利(居住権)」を切り離して取得できる制度です。
 ご相談者のケースに当てはめると、「建物の所有権は兄弟に相続させる」一方で、「建物の使用権(配偶者居住権)は妻に遺贈する」という内容の公正証書遺言を作成しておきます。

 これにより、奥様はご自宅を追い出されることなく安心して暮らし続けることができます。そして、奥様が亡くなった時点(配偶者居住権の消滅時)で、所有権を持っていたご兄弟が「完全な所有権」を手にすることになるため、中国の親族が絡む相続トラブルを完全に防ぐことができるのです。

 この方法であれば、生前に複雑な信託契約を結ぶ必要はなく、公正証書遺言を作成しておくだけで準備が完了します。将来相続が発生した際の配偶者居住権の設定登記にかかる登録免許税も低く抑えられており、家族信託に比べて費用面での負担を劇的に軽くすることができます。

抹消登記の簡便さと、二次相続を見据えた絶大な「節税効果」

 この提案をお聞きになったご相談者は、「妻が亡くなって権利が消滅した際、その配偶者居住権の登記を消すために中国の親族の協力が必要になるのでは?」と一瞬不安な顔をされました。

 しかし、ご安心ください。配偶者の死亡によって配偶者居住権が消滅した場合には、特例として、建物の所有者は「単独で」配偶者居住権の登記の抹消を申請することができます。中国の親族を登記義務者として手続きに巻き込む必要は一切なく、日本にいるご兄弟だけでスムーズに完全な所有権を回復させることができるのです。

さらに、この配偶者居住権の活用には、「相続税の節税効果」という付加価値もあります。

① 一次相続(夫の死亡時)における節税効果

 配偶者居住権やそれに伴う敷地を利用する権利(敷地利用権)は財産的価値を持ちますが、これらについては「配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分まで非課税)」の対象となります。

 また、敷地利用権については、一定の要件を満たせば「小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)」の適用対象となり、評価額を最大80%減額することが可能です。

 これにより、一次相続において奥様が負担する相続税を大幅に抑えつつ、その他の預貯金などもバランスよく相続しやすくなります。

② 二次相続(妻の死亡時)における節税効果

 もし奥様に不動産の完全な所有権を渡した場合、将来奥様が亡くなられた際(二次相続)には、その財産的価値に対して多額の相続税が課せられる可能性があります。

 しかし、「配偶者居住権」は、配偶者が死亡した時点で消滅する権利です。この際、負担がなくなった建物の所有者(ご兄弟)は完全な所有権を手にすることになりますが、これはあくまで民法の規定により権利が消滅した結果にすぎません。そのため、所有権を持つご兄弟に対して、配偶者居住権の消滅に伴う贈与税や相続税は一切課税されないのです。

 つまり、奥様の財産として評価されていた「配偶者居住権の価値」が、二次相続の際にはそっくりそのまま課税対象から消え去るため、二次相続の税負担を劇的に軽減することができます。

おわりに

 ご相談者は、「家族信託しかないと思い込んでいましたが、費用も抑えられて税金対策にもなるなんて、本当に相談してよかった」と安堵の表情を浮かべられ、当事務所のサポートのもと、配偶者居住権を設定する公正証書遺言を作成されました。

 専門家とは、自分の得意な特定の手法(今回で言えば家族信託)を売り込むことではなく、お客様の状況を深く理解し、多くの引き出しの中から「最も負担が少なく、効果が最大になる道」を導き出すことだと私は考えています。

 司法書士・行政書士津田リーガルオフィスは、家族信託の豊富な実績を持ち合わせているからこそ、それに固執することなく、遺言、配偶者居住権、その他の生前対策をフラットな視点で比較検討し、お客様にとっての「オンリーワンの正解」をご提案することが可能です。

 「自分亡き後の家族の暮らしを守りつつ、財産の行き先を安全に確保したい」とお悩みの方は、ぜひ当事務所の無料相談をご利用ください。あらゆる可能性の中から、最善の道筋を一緒に見つけ出しましょう。