賃貸物件の入居者が死亡し、相続人と連絡がつかない場合の対処法

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 賃貸物件の経営を長く続けていると、思わぬトラブルに直面することがあります。その中でも特に対応が難しく、オーナー様からのご相談が多いのが「入居者が亡くなった後、親族等の相続人と連絡がつかない」というケースです。

 今回は、そのような場合に賃貸人(オーナー様)が適法かつ確実に物件の明け渡しを受けるための具体的な対処法について、順を追って詳しく解説いたします。


1.入居者の死亡によりオーナー様が直面する困った状況

 今回想定するのは、賃貸借契約の期間が長く続いており、個人で借りていた入居者(賃借人)がお亡くなりになったケースです。


・身寄りがない・親族と疎遠な高齢入居者の増加

 長期間お住まいいただいていたため、契約時に設定した連帯保証人もすでにお亡くなりになっていたり、連絡先が変わってしまって確認がとれなくなっていることがよくあります。

 さらに、亡くなった賃借人の親族とも疎遠で、誰が相続人なのかわからない、あるいは連絡先が全く不明で途方に暮れてしまうといった非常に困った状況です。


・賃貸借契約は当然には終了しない

 「本人が亡くなったのだから、契約も自動的に終わり、部屋の荷物は片付けていいだろう」と考えてしまいがちですが、それは法律上間違いです。

 賃貸借契約は、賃借人が死亡したからといって当然に終了するわけではなく、その権利義務(賃借権や賃料を支払う義務など)は相続人に引き継がれます。そのため、オーナー様が勝手に部屋を片付けることはできず、まずは相続人を特定しなければなりません。


2.まずは「相続人調査」からスタート

 契約解除や明け渡しの話し合いを進めるための大前提として、亡くなった賃借人(および連帯保証人)の相続人が誰なのかを確定するための調査を行います。


・戸籍謄本等の第三者請求

 「家族でもないのに、他人の戸籍を勝手に取ることができるの?」と思われるかもしれません。

 しかし、賃貸人は、未払賃料を請求したり、契約を解除して建物の明け渡しを求めるといった「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために住民票や戸籍の記載事項を確認する必要がある」場合に該当し、法律上の利害関係人として認められます。

 したがって、正当な理由と証拠(賃貸借契約書など)を添えて役所に請求することで、亡くなった賃借人や連帯保証人の本籍入りの住民票の除票を取得し、それで本籍を把握してから、賃借人や連帯保証人の出生から死亡までの戸籍謄本等(除籍謄本や改製原戸籍など)を第三者請求により取得することになります。

 なお、昨年3月から始まった「戸籍の広域交付制度」は、第三者請求の場合は利用できず、賃借人や連帯保証人の本籍地の役所に直接請求する必要があるので、ご注意ください。


・「戸籍の附票」で現住所を特定

 戸籍をたどって法定相続人を確定させただけでは、その相続人がどこに住んでいるかまでは分かりません。そこで、戸籍の調査とあわせて「戸籍の附票」を取得します。これにより、相続人の現在の住民票上の住所を特定することができます。


3.判明した相続人へのアプローチ(退去手続きの要請)

 戸籍と住民票の調査によって相続人とその現住所が判明したら、次はその住所宛てに手紙などの文書を送って交渉を開始します。


・配達証明付内容証明郵便による通知

 賃料が滞納されているような場合、未払賃料の請求とともに、債務不履行を理由とした賃貸借契約の解除、原状回復、および建物の明け渡しを求める通知を行います。

 後になって「そんな手紙は受け取っていない」「契約解除の通知だとは知らなかった」といった言い逃れを防ぐため、この通知は「配達証明付内容証明郵便」を利用して送付することが実務上の基本です。


・相続人の協力を得られた場合

 この通知に対して相続人から連絡があり、未払賃料の精算や合意解除、残置物(部屋に残された荷物)の撤去に協力してくれれば、裁判などの大がかりな手続きをすることなく、スムーズに解決へと進むことができます。


4.相続人が無視・連絡を拒否する場合の法的対抗策

 内容証明郵便が届いているにもかかわらず、相続人から一切連絡がない、あるいは関わりたくないと完全に無視されてしまう場合もあります。


・絶対にNG!「自力救済の禁止」

 どれだけ連絡が取れなくても、オーナー様が自らの判断で合い鍵を使って部屋に入り、荷物を勝手に搬出・処分してしまうことは「自力救済の禁止」という原則に触れる違法行為です。

 のちに突然現れた相続人から「勝手に遺品を処分された」と損害賠償を請求されるなどの甚大なリスクがあるため、絶対に行ってはいけません。


・建物明渡請求訴訟の提起

 法的に正しい解決方法としては、特定した相続人を被告として、裁判所に「建物明渡請求訴訟」を提起することになります。

 「建物明渡請求訴訟」は、対象となる不動産(賃貸物件)の所在地でも提起できるので、特定した相続人が遠方に住んでいたとしても、お近くの裁判所で訴訟を行うことが可能です(ただし、賃貸借契約書に「〇〇裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」とある場合は、その裁判所でしか裁判を行うことができないので要注意)。

 もし、現地調査等で相手が実際にそこに住んでいることが確認できるにもかかわらず、相手がわざと居留守を使ったり受領を拒否したりする場合は、書留郵便を発送した時点で送達があったとみなす「付郵便送達」を利用します。

 また、相手の行方自体がどうしても分からない場合は、裁判所の掲示板に張り出すことで送達があったとみなす「公示送達」という手続きを利用して、相手が裁判に出てこなくても強制的に裁判を進めることが可能です。


・勝訴判決に基づく強制執行

 裁判を起こして「建物を明け渡せ」という勝訴判決(債務名義)を得た上で、裁判所の執行官に対して「強制執行(明渡執行)」の申立てを行います。

 執行官の立ち会いのもと、法律に則って残置物を撤去・処分することで、初めて適法に部屋の明け渡しを実現することができます。


5 相続人全員が「相続放棄」をした場合の対応の流れ

 相続人に手紙を送ったところ、「疎遠だったので関わりたくない」「すでに家庭裁判所で相続放棄の手続きをしました」と返答されたり、調査の結果、相続人全員が相続放棄をしていることが判明するケースもあります。


・相続人が誰もいなくなると「相続財産法人」に

 相続人全員が相続放棄をした場合、「相続人不存在」ということで、賃借人の相続人は最初から誰もいなかったことになるため、賃借権や部屋の中の残置物は「相続財産法人」という扱いになります。

 この場合も、オーナー様が勝手に処分することはやはりできません。


・相続財産清算人の選任

 「相続人不存在」の場合、利害関係人として、家庭裁判所に対して「相続財産清算人(旧:相続財産管理人)」の選任を申し立て、選任された清算人を相手方として契約の解除や残置物の処理を求めていくことになります。

 令和3年の民法改正(2023年4月施行)により、これまでは手続き(債権者等への公告など)に最低でも10ヶ月以上の期間がかかっていましたが、法改正により公告手続きが一本化され、最短6ヶ月程度にまで短縮されました。


・予納金の問題と事前対策の重要性

 期間が短縮されたとはいえ、相続財産清算人の選任申立てには、申立てには数十万円〜100万円程度の「予納金」を裁判所に納める必要があるケースが多く、オーナー様にとって金銭的な負担が大きいことに変わりはありません。

 そのため、近年の賃貸経営の実務では、単身高齢者の入居にあたって「死後事務委任契約」を結んでもらったり、国土交通省が策定した「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を賃貸借契約に盛り込んでおくなど、事前の対策の重要性が非常に高まっています。


6.まとめ

 賃貸物件で入居者が死亡し、相続人と連絡がつかない事案では、戸籍の収集による相続人の確定から始まり、内容証明郵便による催告、裁判所での明渡訴訟や強制執行、さらには管理人選任申立てなど、非常に煩雑で専門的な法的手続きが求められます。


 司法書士・行政書士 津田リーガルオフィスでは、一般の方には難しい複雑な戸籍の収集や内容証明郵便の作成、さらには裁判所に提出する訴状等の書類作成を通じて、ご自身で裁判を進める「本人訴訟」を強力にサポートいたします。

 もし、「平日は仕事があり裁判所に行くことができない」「相手と直接やり取りをしたくないので代理人として全て任せたい」というような場合で、当事務所で代理できないご事情(※簡易裁判所の管轄を超える明渡請求など)がある際には、手続きをスムーズに引き継げる信頼できる提携弁護士をご紹介することも可能です。

 賃貸トラブルは放置すればするほど未払賃料が膨らみ、次の入居者を募集できないためオーナー様の損害が大きくなってしまいます。お一人で抱え込まず、まずは当事務所までお気軽にご相談ください。