高齢者との賃貸借契約における注意点と実践的対策〜孤独死・認知症リスクに備える〜

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 超高齢社会を迎えた日本において、賃貸市場における高齢単身世帯の割合は年々増加しています。

 不動産業者やオーナー様にとって、高齢者の入居受け入れは空室対策として不可欠になる一方で、「孤独死(孤立死)」「認知症によるトラブル」「家賃の滞納」といったリスクへの不安から、入居をためらうケースも少なくありません。


 しかし、事前に法的な対策を講じ、適切な支援制度を活用することで、これらのリスクは大幅に軽減することが可能です。

 今回は、高齢者と建物賃貸借契約を締結する際の注意点、契約書に盛り込むべき具体的な条項、そして活用できる支援施策について詳しく解説します。


1.入居前審査における注意点と対応策

(1)判断能力(意思能力)の確認

 契約の大前提として、入居希望者に契約の意味を理解する「判断能力(意思能力)」があるかどうかの確認が非常に重要です。

 認知症等により判断能力がない状態で契約を結ぶと、後日契約が無効になるリスクがあります。


 面談等で判断能力に不安を感じた場合は、親族に状況を確認したり、ケアマネジャー(介護支援専門員)の意見を参考にしたりすることが大切です。

 また、既に「成年後見制度」などを利用しているかどうかを確認するため、入居希望者に法務局で発行される「登記されていないことの証明書」の提出を求めることも一つの方法です。成年被後見人である場合は、成年後見人を法定代理人として契約を締結する必要があります。


(2)緊急連絡先・身元引受人の確保

 高齢者の単身入居の場合、急病や事故に備えて「緊急連絡先」や「身元引受人」を正確に把握しておくことが必須です。

 契約時には、親族や知人などの連絡先を必ず確認し、入居後も定期的に情報の更新を行うことが望ましいです。


2.契約時に盛り込むべき特約条項(実例文言)

 通常の賃貸借契約書のままでは、高齢者特有のリスクに対応しきれない場合があります。以下の条項を特約として盛り込むことを検討してください。


① 安否確認のための「立ち入り」に関する条項

 高齢の入居者と長期間連絡が取れず、郵便物が溜まっている場合など、孤独死が疑われる事態が発生することがあります。

 しかし、賃貸人といえども、無断で部屋に立ち入ることは住居侵入罪などに問われるリスクがあります。そのため、緊急時における立ち入りの根拠を契約書で定めておくことが重要です。


【契約書に盛り込む文言の例】
「貸主は、建物の防火・構造の保全その他の管理上特に必要があるときは、あらかじめ借主の承諾を得て本物件内に立ち入ることができる。ただし、借主と長期間連絡が取れず、安否確認や防犯・防災上などの緊急を要するやむを得ない事情がある場合は、事前の承諾を得ることなく立ち入ることができるものとし、借主はこれに異議を述べない。」


② バリアフリー化に伴う「造作買取請求権・有益費償還請求権の放棄」

 高齢者が入居後に手すりやスロープを設置するなど、自費でバリアフリー改修を行うことがあります。

 法律上、賃貸人の同意を得て付加した造作については、退去時に貸主に買取りを請求できる権利(造作買取請求権)などがありますが、これをそのままにすると貸主に思わぬ費用の負担が生じます。


【契約書に盛り込む文言の例】
「借主は、本物件の明渡しに当たり、その事由・名目のいかんを問わず(貸主の設置承諾を得た場合であっても)、本物件に付加した諸造作・設備等の買取り、および支出した有益費の償還等を貸主に請求することはできないものとする。」


③ 残置物の処理と死後事務委任契約の活用

 賃借人が死亡した場合、部屋に残された家財道具(残置物)は相続人の財産となるため、貸主が勝手に処分することはできません。

 しかし、相続人が見つからない、あるいは全員が相続放棄をしてしまった場合、部屋の明け渡しが長期間滞ってしまいます。

 このリスクを防ぐため、国土交通省は「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しています。これは、賃貸借契約とは別に、借主と第三者(受任者)との間で「死亡時の賃貸借契約の解除」と「残置物の廃棄・指定先への送付」を委任する死後事務委任契約を結んでおく仕組みです。


【賃貸借契約の特約に盛り込む文言の例】
「借主は、本契約締結と同時に、借主の死亡時における本契約の解除および残置物の処理に関する死後事務委任契約を、貸主の指定(または承認)する第三者との間で締結するものとする。」

※注意:貸主自身が受任者になることは、利益相反や消費者契約法違反となるおそれがあるため、居住支援法人や管理会社などの第三者を受任者とすることが推奨されています。


3.高齢者の入居をサポートする施策・制度の活用

 高齢者の入居に際しては、経済的な不安や生活上の不安を軽減するための公的制度やサービスを案内・活用することも、不動産業者として重要な役割です。


(1)生活保護の「代理納付制度」

 入居者が生活保護を受給している場合、家賃(住宅扶助費)を福祉事務所から直接、貸主の口座へ振り込んでもらう「代理納付制度」を利用できる場合があります。これを活用することで、家賃滞納のリスクを未然に防ぐことが可能です。


(2)生活福祉資金貸付制度

 敷金や礼金、引越し費用などの初期費用を工面できない低所得の高齢者に対しては、各市区町村の社会福祉協議会が窓口となっている「生活福祉資金貸付制度」を案内することが考えられます。要件を満たせば、入居に必要な費用の貸付けを受けることができます。


(3)居住支援法人によるサポート

 「住宅セーフティネット法」に基づき都道府県等から指定された「居住支援法人(NPO法人等)」は、高齢者などの入居に関する相談、家賃債務保証、入居中の見守りサービスや死後事務の受任などを行っています。

 身寄りのない高齢者の場合、こうした法人と連携することで、オーナー様も安心して物件を貸し出すことができます。


広島県住宅確保要配慮者居住支援法人指定一覧

(4)終身建物賃貸借制度

 高齢者が生きている間は契約が存続し、「死亡した時に契約が終了する」という特例の賃貸借契約制度です。

 通常の賃貸借契約のように相続人に借家権が引き継がれないため、死後の明渡しトラブルを根本から防ぐことができます。都道府県知事の認可を受けたバリアフリー物件などで利用可能です。


4.まとめ

 高齢者の入居は、適切な対策と制度の活用によってリスクを最小限に抑えることが可能です。私たち不動産業界と専門家が連携することで、オーナー様の資産を守りつつ、高齢者が安心して暮らせる社会を実現することができます。


司法書士・行政書士津田リーガルオフィスでは、以下のサポートを提供しております。

  • 高齢者向けの特約を盛り込んだ賃貸借契約書のリーガルチェック・作成
  • 終身建物賃貸借契約書の作成および認可
  • 単身高齢者の入居に必須となる「死後事務委任契約」や「見守り契約」の組成
  • 入居者の判断能力に不安がある場合の成年後見制度の申立てサポート
  • 賃借人死亡後の相続人調査や、法的な明渡し手続き(相続財産清算人の選任申立て等)

 「身寄りのない高齢者から入居申し込みがあったが、どう契約すべきか分からない」「万が一の孤独死に備えた契約の枠組みを作りたい」などのお悩みがございましたら、どうぞお気軽に司法書士・行政書士津田リーガルオフィスまでご相談ください。オーナー様の円滑な賃貸管理を法務の力で強力にサポートいたします。